【ブライデン夫妻ブームを斬る】 vol.5


●「奇跡の詩人」というトラウマ

 NHKが「ブライデン夫妻ブーム」を煽っているのを見て、ふと
 連想してしまったものがあります。
 それは、2002年4月28日に放送された「奇跡の詩人」です。
 「ドーマン法」と「FC」の宣伝としか思えないこの番組は、多
 方面から非難を浴びました。
 ま、動機は「夢を与える」という純粋なものだったのだろうとは
 思いますが、その後の不誠実極まりない対応により、NHKの社
 会的信用は、地に落ちたように思います。

 どうも近年のNHKは、「夢」にこだわりすぎているように思い
 ます。
 これが、「奇跡の詩人」という大失態をやらかすことになった最
 大の原因ではないかと思います。
 ところが、NHKは、その点を改めようとせず、逆に「リベンジ」
 に出た…。
 それが、「ブライデン夫妻ブーム」のように思えてならないので
 す。

 確かに、「ブライデン夫妻ブーム」には、「奇跡の詩人」のよう
 な疑似科学的な疑惑は、それほどハッキリとは見当たりません。
 ですが、それでも、「?」と思わされるところがあるのです。
 たとえば、クリスティーン(・ブライデン)さんが数少ない幸運
 な例であることを意図的に無視している点です。
 そして、それは、「夢」へのこだわりすぎからくるものだと思わ
 れてしかたないのです。


●夢という独善

 人に夢を与えるなんて、そう簡単にできることではありません。
 自分では夢を与えているつもりでも、相手はそう思わない場合が
 少なくないものです。
 最悪の場合、逆に傷つけてしまう場合すらあり得ます。
 ですから、慎重にやらないと、単なる独善(偽善)になってしま
 うのです。

 そもそも、夢なんてものは、人によって、みな違うでしょう。
 多様性を認めるならば、そうなるはずです。
 そういうものを、とかく画一的になりやすいマス・メディアが与
 えようとすること自体、無理があると思います。

 それに、「夢」は、主体的・能動的なものであるべきであって、
 受動的なものではあるべきでないと思います。
 受動的なものなんて、単なる「押し付け」にすぎないでしょう。
 「押し付け」は、マス・メディアの最も得意とするところのもの
 です。

 「夢」を与えることよりも、「夢」を壊さないことの方が大切だ
 と思うのですが、今のオトナたちはそうは思っていないようです
 ね。
 たとえば、自分の子どもに対してさえも、自分の「夢」を押し付
 けて、子どもの「夢」を破壊するようなことを平気でやっている
 のですから。
 結局、彼らの言う「夢」なんて、彼ら自身の「表現」の世界にす
 ぎないのです。
 つまりは、「表現の自由」=「夢を与える行為」というわけです。
 馬鹿馬鹿しくて、付き合ってられません。

 「奇跡の詩人」も、「ドーマン法やFCを広めることで、多くの
 人が救われるはず」という、NHKの「夢」(=独善)にすぎな
 かったのです。
 そして、同じようなことが「ブライデン夫妻ブーム」にも考えら
 れるのです。


●夢より真実を!

 「夢」で人を救う(幸福にする)ことは出来ません。
 実益や実効性がなければ、人は救えないのです。

 ですから、福祉でまず求められるのは、「夢」ではなく、「真実」
 なのです。
 その点を、NHKは完全に勘違いしているのです。

 もちろん、真実は、人にとって必ずしも喜ばしいものとは限りま
 せん。
 時には、人を絶望のどん底に追い込むことさえあります。
 しかし、だからといって、「夢」で人を騙すようなことが良いと
 は言えないでしょう。
 夢が嘘や空想にすぎないとわかってしまった時、かえって傷つく
 ことになってしまうのではありませんか?

 末期の胃癌の患者に、「胃潰瘍だ(から治る)よ」と言う(こと
 によって夢を与える)のが、福祉と言えるでしょうか?
 たとえ治る見込みがなくても、(患者本人の尊厳を十分考慮した
 上で)最後まで誠意をもって治療や介護をつくす…それが本当の
 福祉ではないでしょうか?
 そして、そのためには、夢よりも真実が重要になってくるはずだ
 と思うのです。

 私の見る限り、NHKの福祉番組にかかわっている人たちは、自
 分の親の介護すらしたことがない人たちであるように思えてなり
 ません。
 でなければ、あんな(夢で人を騙す)番組を作れるわけがないと
 思うのです。
 「夢」の代わりに「勇気」や「希望」という言葉が使われること
 がありますが、独善的な押し付けということでは同じです。
 福祉は、アニメの世界ではありません。
 虚しい精神論よりも、本当に役に立つ現実論の方が良い…と私は
 思うのです。


──────────────────────────────
発行者:media
──────────────────────────────

戻る