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           『科学』という思想信条 vol.11

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 今回は、『天動説の教訓』の最終回です。

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<もたれ合い>

 天動説は、宗教が科学を抑圧した例として、よく取り上げられますが、それ
 では中世の時代に、どれだけの科学者たちが地動説を支持していたのでしょ
 うか?
 特に数学者たちは?

 確かに、一般に目にすることのできる書物には、天動説を支持した科学者の
 名は載っていません。
 しかしながら、これは必ずしも、全ての科学者が地動説を支持していた証拠
 とは言えないのです。

 周転円を描くことは、数学無知の人間には不可能なことです。
 このことから、天動説を支持する(地動説を支持しない)科学者がいなかっ
 たとは、極めて考えにくいのです。
 今日、こうした科学者が知られていないのは、彼らが、科学史上、取り上げ
 る価値のない人物ゆえに忘れ去られてしまった…と見るのが賢明なのです。

 おそらく、多くの科学者が宗教界に身を寄せていたのは、事実でしょう。
 ちなみに、(以外と認識されていないことですが)コペルニクスは、もとも
 と、宗教界の人です。
 いずれにせよ、何かに身を寄せれば、それに支配されることになるのは当然
 のことです。

 一方、キリスト教も、最初から科学を牛耳るほど勢力を有していたわけでは
 ありません。
 それに、聖書は天文学の本ではないのです。
 キリスト教が科学と深い関わり合いを持つようになったのは、イエスが亡く
 なってから、ずっーと後の時代のはずです。

 以上のことから気付いて欲しいのは、科学と宗教との間に『もたれ合い』が
 あったということです。
 科学者は、宗教界に身を寄せることで、権威(や地位)を得る。
 一方、宗教界は、科学(や科学者)を味方につけて、権威を得る。
 これが、中世の時代の科学と宗教の関係だったのです。
 従来のように、何でも悪いことは宗教のせいにするというのは、科学の宣伝
 にすぎません。

 もっとも、人によっては、
 「その昔、科学と宗教の境界は、曖昧だった。ちょうど天文学と占星術が一
  緒だったように…」
 と主張するかもしれません。
 だとすれば、ますます話がややこしくなるのですが…。

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<パラサイト?>

 それはそうと、なぜ、科学者たちは宗教界に身を寄せたりしたのでしょう?

 それは、当時の科学者たちにとって、宗教界は、最も収入が安定し、かつ、
 最も高い権威を得る生き方だったからです。
 こうしてみると、科学者もまた、人間にすぎないという現実が見えてくるで
 しょう。

 私は、科学者というのは、芸術家(特に音楽家)と立場が似ていると思いま
 す。
 つまり、どこかに身を寄せなければ、食っていけないということです。
 彼らの仕事の産物、すなわち学問は、一般の市場では売り物になりません。
 なぜなら、一般の人々にとって、学問はほとんど何の役にも立たない(ゆえ
 に購入の必要も無い)ものだからです。
 したがって、彼らを雇ってくれる人、あるいは、パトロンとなってくれる人
 が、どうしても必要になってくるのです。
 つまり、超、厳しい言い方をするならば、『パラサイト』ということです。

 これは別に科学者(や芸術家)を侮辱しているのではありません。
 この世に、誰にも頼らずに一人で生きていける人間など、一人もいません。
 私が言いたいのは、科学者も、一般のサラリーマンと同じく、現実を無視で
 きない人間なのだ、ということです。

 よく、昔の偉人は博学だったといいますが、それは博学でないと、良いとこ
 ろに就職できなかったからです。

 どうも、科学ファン、特にSFマニアの方には、科学者を特別視したがる傾
 向があるように思えてなりません。
 科学者は、決して、俗界を逃れ、霞だけを食って生きていける仙人なんかで
 はないのです。
 よく、洋モノのSF・アクション作品などでは、クレージーな科学者が、驚
 くべき殺人兵器を作って、世界征服をたくらむ…というのがあります。
 また、邦モノのアニメ作品などでは、天才科学者が密かに開発した秘密兵器
 によって世界が救われる…というのがあります。
 しかし、科学者のおかれている現実を考えれば、どちらもまず絶対に有り得
 ないことなのです。

 それに、科学の研究には、とにかく金がかかるのだということを、決して忘
 れてはなりません。

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<理屈屋の存在>

 さて、もう一つ、重要なことがあります。
 それは『理屈屋』の存在です。
 理屈屋は、物事を解釈する人たちと言えます。
 解釈の対象は、観測や実験などのような『事実』の場合もあれば、聖書のよ
 うな『文献・記録』などの場合もあります。

 実は、中世の暗黒時代の暗黒時代を作り出したのは、まさに彼らだったので
 す。
 彼らは、観測事実も、聖書の記述も、どちらも天動説に都合のいいように解
 釈したのです。
 彼らこそ、科学の迷走を生み出した張本人だったのです!
 さらに、彼らが生み出した天動説盲信は、科学だけでなく、宗教さえをも狂
 わせてしまったのです。
 地球円盤説も、魔女狩りも、おそらく理屈屋たちが生み出した迷妄だと思わ
 れます。

 そういう意味からすれば、科学だけでなく、宗教もまた被害者だったと言え
 るでしょう。
 科学の立場からすれば「科学が宗教に犯された」と言いたいところでしょう
 が、宗教の立場からすれば「宗教が狂った科学理論に犯された」と言うこと
 もできるのです。

 さて、御存知のように、中世の時代を支配していた天動説も、後の時代には
 捨て去られました。
 その最大の原因は、おそらくカトリックの権威の衰退でしょう。
 皆さんは、天動説がいつ、誰によって反証されたか、答えることができます
 か?

 それはともかく、宗教の権威が失われると、理屈屋たちは、宗教界から学問
 の世界になだれ込んできました。
 中でも、検証の困難な分野は、彼らにとって、もっとも居心地のよい世界で
 あるはずです。

 ですから、たとえ権威ある学説でも、検証の不十分なものを無批判に受け入
 れるのは、決して賢明なこととは言えないのです。

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発行者   : media
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