008-01
水にも、熱(高低温)を運ぶのに必要な三つの能力(熱の吸収、保持、放出)がある。それ故、空気と同様、運動により、熱交換を実現する。

008-02
現に、水の熱交換能力は、集中(冷)暖房や、機械類の冷却などに利用されている。また、自然界でも、海水の循環による熱交換があり、気象や気候に少なからぬ影響を及ぼしている。

008-03
さて、そこで問題になるのが、空気と水との熱交換能力の違いである。水は、空気よりも、比熱が圧倒的に大きい。一方、熱交換能力は、比熱と深い関係がある。

008-04
一般に、比熱が大きいほど、熱(高低温)を運ぶのに必要な三つの能力(熱の吸収、保持、放出)は大きい。このため、流量が同じであれば、比熱が大きいほど、熱交換能力は大きくなる。

008-05
こうしたことから、熱交換能力は、水の方が圧倒的に大きく、それ故に、空気の熱交換の働きは取るに足らないものだ…と思われがちである。だが、それは全く浅はかな見解(認識)なのだ。

008-06
なぜなら、比熱が小さくても、流量が多ければ、熱交換能力は大きくなるからだ。そして、流量が多くなるためには、速度が大きければよいのである。

008-07
空気は単位体積あたりの質量(すなわち密度)が小さい。このため、加速が容易であり、高速度を得やすい。この利点により、空気(風)は、比熱が小さくても、大きな熱交換能力を実現できるのだ。

008-08
つまり、水が比熱の大きさで熱交換能力を稼ぐのに対し、空気(風)は、速度の大きさによって熱交換能力を稼ぐのである。人の場合と同じく、物質にもそれぞれ特長というものがあるのだ。

008-09
以上のことから、風(空気)の熱交換能力は、水の循環によるそれと比較しても、決して軽視できるものではないことがわかるだろう。一つのこと(比熱)しか評価対象にしないのは、反科学的だ。

008-10
ちなみに、空気の速度(流速)が大きくなるということは、空気が熱交換を行う相手の物質との単位時間あたりの接触面積が大きくなるということでもある。

008-11
これは、ラジエータで言えば、放熱板の表面積が大きくなるのと同じような効果があるということだ。以上のことから、風の場合、速度の大きさが非常に重要になってくることがわかるだろう。

008-12
御存知のように、風力発電は、風の実体である空気の運動エネルギーを奪う(→速度を減ずる)ものだ。このことから、空気(風)の熱交換能力を大きく損ねるものであることがわかるだろう。

008-13
つまり、それは、温度差の緩和を大きく阻害するものなのだ。だから、異常気象を招くのである。なお、温度差と異常気象との関係については、この「水との比較」の話の後に説明することにする。

008-14
ついでに言うと、空気は、単位体積あたりの質量(すなわち密度)が小さいために、反応が速い。すぐに動き出せ、すぐに止まれる。それ故、迅速かつ適度な熱交換が可能である。

008-15
これに対し、水は、単位体積あたりの質量(すなわち密度)が大きいために、反応が鈍い。すぐには動き出せず、すぐには止まれない。それ故、迅速かつ適度な熱交換が苦手なのである。

008-16
動き出しにくさは、温度差緩和遅れの原因となる。また、止まりにくさは、不要な熱運搬による新たな温度差発生の原因となる。それ故、温度分布をかえって複雑化させてしまう。

008-17
ちなみに、温度分布の複雑化は、季節の常識に反した温度変動の原因にもなる。こうした副作用が比較的少ないのが、空気(風)による熱交換なのである。これは無視できぬ違いのはずだ。

008-18
また、こんな違いもある。(海)水は上から温められるため、空気のように自ら循環することはできず、故に、熱交換も行えない。このため、たとえば風の作用などを必要とするのである。

008-19
さらに、こんな違いもある。(海)水の循環による熱交換は、陸では行われず、海でしか行われない。一方、空気(風)による熱交換は、陸でも海でも(無論、陸海間でも)行われる。より地球規模的だ。

008-20
以上のように、空気と水との特徴の違いがわかれば、風の重要性が理解できるようになるはずである。あえて「水との比較」という大きな寄り道をしたのは、そのためである。

008-21
そもそも、エアコンによって温まったり涼んだりすることができるのは、空気(風)に熱交換能力があるからだ。この身近な事実に気付けば、風の重要性が理解できるようになるだろう。

008-22
以上で「水との比較」の話は終わりにする。次回からは「温度差と異常気象との関係」の話に移る。これは、今まで話した空気(や水)の熱交換能力と、大いに関係のある話である。

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