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 ━┓→
 N┃→          仮想力線電磁気学
 ━┛→
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●第35回 第3章・力線の理論(その3)

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今回も、力線の基礎についてです。

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7.見えない線
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ファラデーは、力線を電磁気作用の担い手としていたので、これを実在性あるも
のとしていました。
しかしながら、力線は目で見えるものではなく、直接、その存在を確かめられる
ものではありません。
もっとも、砂鉄などによって磁力線のような模様を見ることはできますが、それ
を磁力線の姿(=磁力線が実在する証拠)とすべきなのか、それとも単に電磁気
作用の結果とすべきなのかは、それだけでは判断できないところでしょう。

マックスウェルは、力線は実在性あるものではなく、思考や記述のための道具と
しました。
この点に関して言えば、仮想力線電磁気学も同じです。
特に、仮想力線電磁気学は遠隔作用の理論ですから、なおさらです。
少なくともクーロン力の問題に関しては、力線を描く必要はありません。(もっ
とも、力線を描いた方がわかりやすくなるのは事実ですが…)

これに対し、誘導によって生じる電磁気作用については、少し事情が違ってきま
す。
これは、仮想力線電磁気学では、電磁誘導や、その逆の現象について、ファラデ
ーの考え方を継承しているからです。
力線を描かなくても問題は解けるのですが、力線を描いた方が、クーロン力の場
合以上にわかりやすくなります。

そこで、まず今回は、電磁誘導の考え方について取り上げようと思います。

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8.電磁誘導
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ファラデーが考案した力線の理論で、もっとも注目すべきことは、電磁誘導の考
え方です。

マックスウェル方程式の考え方では、電磁誘導は、

『ある領域の磁場が変動すると、その周囲に電場が生じる』

と説明されます。

これに対し、ファラデーの理論では、

『磁力線を横切ると、磁力線と、運動方向との双方に垂直な方向に電気力が生
 じる』

と説明されます。
これは、磁力線を横切るものの立場から言えば、

『磁力線が横切ると、磁力線と、その運動方向との双方に垂直な方向に電気力
 が生じる』

となります。

いずれにせよ、こうした考え方をするには、力線を描いた方がわかりやすいでし
ょう。

ファラデーの考え方の最も優れたところは、誘導という電磁気現象に『運動』が
関わっていることを明らかにしたことです。
式で表すと、

 F = -q・{v}×{B}

というように、運動を表す速度の項が含まれています。
しかも、この速度vは、物体どうしの相対速度ではなく、力線が横切る相対速度
なのです。
ですから、力線を描いた方が断然わかりやすいのです。

いずれにせよ、速度という、運動を示す項が含まれているために、ファラデーの
理論は、運動の問題も解くことができるのです。

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9.比較
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さて、下図のような問題で、マックスウェル方程式の考え方と、ファラデーの理
論の考え方とを比較してみましょう。

     ←
    □■  Ω       □■:磁石 Ω:コイル  (図1)
     →

これは、コイルに磁石を近づけたり遠ざけたりすると、コイルに起電力が生じる
現象です。

マックスウェル方程式の考え方では、この現象を次のように考えます。
磁石を動かすと、コイル内の磁場が変動します。
すると、その周囲に電場が生じます。
この電場が起電力となるというわけです。

これに対し、ファラデーの力線の理論では、次のよう考えます。
磁石を動かすと、それとともに磁力線が動きます。
そして、磁力線がコイルの導線を横切ることになります。
すると、磁力線と、その運動方向との双方に垂直な方向に電気力が生じます。
この電気力が起電力となるというわけです。

この問題を見る限り、運動の問題が解けるかどうかということに関して、マック
スウェル方程式も、ファラデーの理論も、差が無いように思えます。
しかしながら、次に述べるような問題では、ハッキリと差が出てくるのです。

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10.フレミングの法則
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今度は、下図のような問題を考えてみましょう。

  ┃N┃
  ┗━┛
 ━━━━━        (図2)
  ┏━┓
  ┃S┃

二つの磁極の間に導線があり、この導線を前後(画面の手前⇔奥)方向に動かす
と、導線に起電力が生じる、という現象です。
この現象は『フレミングの右手の法則』によって、次のように表されます。

 親  指 : 導線の運動方向
 人差し指 : 磁界(磁力線)の方向
 中  指 : 起電力の向き

この現象は、上で述べたファラデーの考え方なら、容易に説明が出来ます。
導線が前後に動けば、磁力線を横切ることになり、上で述べた方向に電気力が生
じることになるわけです。

次に、図2において、導線に電流を流すと、導線が前後方向に動く現象を考えて
みましょう。
この現象は『フレミングの左手の法則』によって、次のように表されます。

 親  指 : 導線の運動方向
 人差し指 : 磁界(磁力線)の方向
 中  指 : 電流の向き

これは電磁誘導ではありませんが、この現象も、ファラデーの考え方で説明でき
ます。
電流は電荷の流れであり、電荷が流れれば、電荷は磁力線を横切ることになりま
す。
そうなれば、導線中を流れる電荷は、上で述べた方向に電気力を受けることにな
ります。

このように、ファラデーの理論では、どちらの現象も説明できます。
ところが、マックスウェル方程式では、どちらの現象も説明できないのです。
これは、『ある領域』とか『その周囲』というものが定義できないからです。
このため、マックスウェル電磁気学では、『ローレンツ力』という別の概念が必
要になってくるのです。

これに対し、ファラデーの力線の理論は、全てが統一的に説明できます。
もちろん、ローレンツ力についても、です。
となれば、これを採用しない理由はないでしょう。

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11.見方を変えると…
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さて、図1の問題で、運動する磁石の代わりに、下図のように、電流の変化する
電磁石を用いた場合について、考えてみましょう。

    Ω   Ω       (図3)
    1   2

1が電磁石のコイル、2が起電力の生じる側のコイルです。
この場合も、図1の問題と同様に、コイル2に起電力が生じます。

コイル1の電流が変化すれば、電磁石の磁力が変化し、コイル2内の磁場が変動
します。
したがって、マックスウェル方程式の考え方で、説明ができます。

では、ファラデーの考え方では、どうでしょうか?
一見、説明ができないように思えますが、ものの見方を少し変えると、説明でき
るようになります。

コイル2内の磁場が変化するためには、コイル2内から磁力線が出入りしなけれ
ばなりません。
すると、その際、磁力線はコイルの導線を横切ることになり、電気力が生じるこ
とになります。
こうして、ファラデーの考え方でも説明できるようになるのです。

さて、こうした見方を応用すると、ファラデーの力線の理論から、マックスウェ
ル方程式が導けるのです。
これについては、この章で、いずれ説明いたします。

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