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 N┃→          仮想力線電磁気学
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●第10回 概要(その10)

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今回から、場の実在性に関する説明をします。

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33.近接作用と場
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マックスウェル電磁気学のような近接作用理論の場合、空間が重要な役割を果た
します。
空間は、作用を伝える担い手とされます。
そこで、『場』という概念が出てきます。
『場』とは、簡単に言ってしまえば、空間の緊張状態のことです。
たとえば、電荷Aから電荷Bへ作用が及ぶ現象では、まず電荷Aによって空間が
電磁気的に緊張し、それによって電荷Bが空間から作用を受けると考えます。
この空間の緊張状態が『場』というわけです。
近接作用では、場は実在性あるものとされます。

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34.遠隔作用と場
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これに対し、遠隔作用では、空間自体は、何の役割も果たしません。
このため、場は実在性あるものとはされず、あくまで『見かけ上のもの』、『仮
想的なもの』とされます。
見かけ上や仮想的にとはいえ、空間が何の役割も果たさないのに、なぜ場という
概念を認めるのかというと、繁雑な多体問題を単純化することができて便利だか
らです。

とはいえ、近接作用があらゆる場を認めるのに対し、遠隔作用では、基本的には
以下の二種類しか認めません。

 1.電荷(磁荷)の存在によって生じる電場(磁場)

 2.電荷の運動(電流)によって生じる磁場

これ以外の電磁場は、仮想的にすら価値を認めません。
電磁誘導やローレンツ力のような、磁場から電荷が受ける電気力については、そ
の作用を受ける電荷にとってだけ、(電)場は仮想する価値があります。
そうした電荷が存在しない場合は、仮想する価値がないとされます。
これは電磁気作用の特徴から、帰納的に導かれることです。

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35.場は力に他ならない
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では、なぜ、そのような考え方が可能なのでしょうか?
それは、遠隔作用では、場は単位量あたりに働く力に他ならないとされているか
らです。

たとえば、電場や磁場を表す概念として、それぞれ、『電界』と『磁界』があり
ますが、これらは要するに、『単位電荷(磁荷)あたりに働く電気力(磁力)』
に他なりません。

わかりやすい例として、電荷qが、電界Eの場において、電気力Fを受ける場合、

 F = q・E

から、

 E = F / q

となり、まさに単位電荷あたりに働く電気力となります。
磁界についても同様です。

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36.重ね合わせの理
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遠隔作用で場を考える際に注意しなければならないのは、重ね合わせの理が成り
立たないことです。
もちろん、静的つりあいの問題のように、問題の種類によっては、結果的に成り
立つ場合もありますが、一般的には成り立ちません。

たとえば、今、二つの電荷があって、一方が(相対的に)静止しており、もう一
方が(相対的に)運動している場合、これらの電荷によって生じる電場を重ね合
わせてはなりません。
というのは、電荷が運動すると磁場が誘導によって生じ、さらにその磁場から電
荷が電気力を受けることがあるからです。
電場を重ね合わせてしまうと、こうした誘導によって生じる電磁気作用を算出で
きなくなってしまいます。

こうしたことから、重ね合わせの理は成り立たないことになるのです。

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37.疑似近接作用と場
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遠隔作用でも、疑似近接作用、すなわち、仮想エーテルによる近似が可能な問題
については、近接作用の問題に置き換えて考えることができます。
そして、この場合、場についても、近接作用と同様に、実在性あるものとするこ
とができます。

近接作用の場合、連鎖反応的に、電磁場から新たな電磁場が次々と誘導されてい
くことを、以前(第5回に)説明しました。
これは、近接作用では、場が実在性あるものとされているから可能なことなので
す。

一方、疑似近接作用では、全空間の全物質(を構成する荷電粒子)が疑似エーテ
ルとなって、作用が伝わります。
この疑似エーテルと等価の働きをするものとして、作用を及ぼす物体と及ぼされ
る物体の途中の空間に仮想された疑似エーテルが、仮想エーテルです。
仮想エーテルは、本当は実在しないものです。
このため、見かけ上は、近接作用のごとく、(何もない)空間で、電磁場が次々
と連鎖反応的に誘導しているように見えるわけです。
こういうわけで、近接作用の問題に置き換えることができるわけです。

しかし、注意しなくてはならないのは、疑似近接作用は、本来、遠隔作用であっ
て、本当の近接作用ではない、ということです。
すでに述べたように、仮想エーテルも、本当は実在しないものです。
ですから、場も、本当は実在性のないものなのです。
このように、疑似近接作用は、近接作用と全く同じというわけではないのです。
疑似近接作用(や仮想エーテル)という概念は、あくまで問題を単純化するため
のテクニックにすぎず、実像を描くものではないのです。

こうしたことから、疑似近接作用における『場の実在性』は、近接作用とも、遠
隔作用とも異なる考え方をしなければならないことがあります。
つまり、ある時は場を実在性あるものとし、また、ある時は場を実在性のないも
のとするという、一見、恣意的で御都合主義的とも受けとめられかねないところ
があります。
こうした事情も、疑似近接作用が、本当の近接作用ではないことを知れば、十分
理解できると思います。

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